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はじめに

LED電球のはじまり、はじまり!

 『戦艦大和みたい』そう比喩されるタフな電球、タフらいとシリーズ。この商品がどのようにして出来上がったのかを、物語風に綴ってみたいと思います。

【LED電球の登場】

 その発光効率の悪さから、LEDは照明には使えないと言われていた時期が過ぎ、2008年ごろから、LED電球がちらほらと姿を現しました。

 最初に火がついたのは、電気代が異常に高い、イタリア。MR16という小型のスポットライトから普及が始まりました。このタイプは、直流の12Vが主流でしたので、もともと直流で駆動するLEDには都合の良い商品でした。電源部分も直流から直流を作る為に、比較的容易で、多少暗くても電気代のメリットがあるLED電球は、徐々に市場に浸透していきました。

 しかし、ここで使用されていた直流の12Vというのは特殊な電源であり、直流12Vを作るための”電源”が別置きで必要でした。そこで、徐々に、通常のコンセント使える商用電源、いわゆる交流の220Vや100Vで使用したいというニーズが高まってきて、メーカーはその対応に追われました。

 LEDはそもそも自分の発熱で数秒もしないうちに壊れてしまいますので、熱を大気に放出するためには、面積の大きい電球の胴体に、100度近い熱を持ってこないといけません。しかし、電源を別置きできていた時代は良かったのですが、交流電源をそのまま電球に印加して使用するとなると、その電源を、高密度に実装して小さくし、電球内部に組み込まなくてはいけなくなります。

 ですが、ここで大きな問題が待ち構えます。交流から直流を作る”電源”には、一般的には必ずある部品を使用しなくてはいけません。その部品の名前が、『電解コンデンサー』。

 以前、排熱が大事な機器である”パソコン”の電源などで、安物の電解コンデンサーを使い一部市場で問題になった事もある部品を、パソコンよりも、さらに熱く、そして小さい場所に押し込める必要が出てきたのです。

LEDを商用電源で光らせる困難はここから始まった!

 電源回路には、電解コンデンサーという電気を溜め込む部品が使われています。これは、日照りの時も豪雨の時も街に一定量の水を供給するための”ダム”と同じ働きをするものです。LEDは、反応性が高いので、ちょっとした電圧の変化にもすぐ追従して、明るさが変化します。変化しないように、一定に水ならぬ電気を供給するのが、この電解コンデンサーなのです。

 しかし、この部品は熱にとても弱いのです。名前の示す通り、”電解液”を使って電気を貯めていますので、この電解液が蒸発したりなくなったりすると電気を貯めることができないのです。

 では、蒸発しないように密閉したら良いのですが、これもそう簡単にはいかないのです。電気を貯めるということは、エネルギーが充填されるということです。小さい空間にパワーを溜め込んでもし、万が一の事(ショートなど)をしたら、爆発するかもしれないのです。

 そうならないように、電子部品メーカーはしっかりと安全対策をしていますが、そのうちの一つが、”防爆弁”。内圧が上がるとそれを逃がすような機構が組み込まれています。しかし、”弁”は、密閉することが本当に難しく、そうなると機密性が下がり、電解液の揮発などによる寿命があるのです。もちろん、化学反応をしていますので、乾電池のように、化学反応による寿命もありますが、いずれにせよ電解コンデンサーは、数あるコンデンサーの中で、圧倒的に寿命が短いのです。

 じゃあ、電解コンデンサーを使わなければ良いじゃないか。まさしくその通りなのですが、他のコンデンサーを使うと容量密度(体積あたりの電気を蓄える力)が低いので、電気が一定に出てこない=つまりフリッカー(ちらつき)の原因を引き起こすのです。

 電解コンデンサーの特性は、とても多くの技術者を悩ませました。たった数十円の部品のせいで、商品そのものが使えなくなってしまう可能性があるからです。

 そこで、各社は電解コンデンサーに熱が行かないように工夫を凝らしました。ファンを搭載したり、穴を開けて空気が少しでも逃げるようにしたり、電球を大きくしたり、フィン(ギザギザ)をつけたりと、様々な対策が打たれました。

 しかし、ファンはファンそのものに寿命があり、音がします。ファンが先に壊れたりしました。穴を開けると、電球に水が入りやすくなりますし、電球自体が大きくなってしまうと電球じゃ無くなります。またフィンをつけるとそのうちにゴミが付着し、放熱効率がかえって悪化します。

 それでは、電解コンデンサーを使わなければいいじゃないかという事で、電気を蓄える力が小さい、他のコンデンサーを使用して商品化をしたLED電球も関西の大手メーカーから出ました。ただちらつきが激しく、原価も上がったため、しばらくして市場から消えました。

 しかしながら、白熱電球よりも消費電力が8分の1というメリットと、年々LEDの発光効率が上がっていき、折しも東日本大震災で、日本国民の間で省エネに関しての関心が高まってきた中、LED電球の市場が拡大し、それに伴い、このような技術的な課題を抱えたままで、LED電球は激しい価格競争に入っていきました。

 その価格競争に先鞭をつけたのは、韓国や台湾、中国などの海外勢でした。LEDの勃興期に、欧州向けで力を蓄えてきた彼らは、低価格を武器に日本市場に参入してきました。デザイン性も低く、見た目は、海外製も日本製も変わらないLED電球。日本の大手企業もその低価格の波をまともに受けました。

 さらに事態は深刻化します。中国企業の台頭です。安価な労働コストに支えられた経済成長の脱却を目指し、ハイテク産業には政府系の金融機関が湯水のごとく、今までの貿易黒字で得た資金を貸し出しました。その中の大きな産業の一つがLED業界だったのです。LED素子を生産するのに必要な”MOCVD”という装置の、実に80%を中国企業が買い占めたと言われる年が数年続いたと言われています。

設計寿命の謎??

【ここまでのまとめ】

 半永久的に光ると言われたLED素子ではあるものの、それを光らせるための電流を供給する電子回路に寿命があるLED電球。中でも、電気を蓄えるダムの役割の電解コンデンサーという部品が、構造上、そして、電解液を使用するという原理上、寿命が決められており、その寿命は、LED電球のような高温になる場所に組み込まれると、飛躍的に短くなるという特性を持っていました。

 しかし、他のコンデンサーを用いると、今度は電気を蓄える力が弱く、電圧(電流)が一定にならず、フリッカー(ちらつき)という現象を引き起こし、そして何よりも材料費が高騰してしまうという問題がありました。この原理は、LEDに携わっている人であれば、100%の人が知っている事実で、そしてどうしようもない現実でした。

 そこで、各社ともLED電球に熱がこもらないように、電解コンデンサーに熱が伝わらないようにと必死で考えました。これが、『熱設計』という世界です。あるメーカーは、車のラジエーターのようなフィンをつけました。あるメーカーは、それに扇風機のようなファンまでつけました。あるメーカーは、4層基板を用い、高密度実装で電解コンデンサーをなくしました。しかし、コスト高とちらつきの問題があったためか、しばらくして市場から姿を消しました。(実際、結構ひどいレベルのちらつきでした)

 このように、LED電球はせっかく交流で使えるようになったにもかかわらず、十分な明るさを確保する事が出来ず、最初は、白熱電球の10~20Wぐらいの明るさの商品しか出来ませんでした。

 しかし、市場は、より明るい商品を求めました。そして当たり前のようにLEDなのだから長寿命は当たり前、と技術的な課題は(当然ですが)顧みられる事もなく、競争は激化して行きました。中でも、寿命に関して最も激烈な競争に入った市場がありました。それは、日本です。深刻な電力事情にあった日本は、人々のエコ意識の高まりもありLEDの市場が急速に立ち上がりました。そしてそこに目がけて、台湾、韓国、中国企業が参入してきたのです。

 価格的に優位に立ちにくい日本企業が打ち出したのが、品質=寿命の長さです。この分野で差別化を図りに行きました。そこで確立されたのが、日本でのスタンダードであり、そして世界でも類い稀な『設計寿命4万時間』というコンセプトです。

誰でもできちゃう?LED電球

 LED電球というのは、今までの白熱電球のように同じ商品を作り続ければ良い、つまり、先に設備投資をしてしまった方の勝ち、という照明の世界を一変させました。

 LED素子メーカーが、例えば中国の政府系の資金を使い、世界標準の生産設備を購入し、生産を行い、それを、パッケージメーカーがLEDモジュールなどにする。それを、電源のICチップメーカーが推奨する駆動用の基板(いわゆる電源回路)を、その回路図通りに組み立てる実装メーカーがいて、最終的には、これらのモジュールを、組み立てるだけのLEDメーカーがいればできてしまう世界に変わりました。

 この水平分業型の産業は、メーカーにノウハウも必要がなく、ちょっとした資金があれば、誰でも生産可能な形態であり、電球産業が、いわゆる参入障壁が低い業界に変わった瞬間でした。正確に統計を取ったことはありませんが、中国だけで数千ものLED関連メーカーがあると思います。
人件費や、資金の調達コストが違う中国、韓国、台湾系のメーカーに対抗して、日本企業が打ち出したのが、『設計寿命4万時間』というコンセプトでした。1日6時間(夕方6時から深夜0時)の使用であれば、18年間光りますよ、というもので、実際に日本を代表する電機メーカーが広告で、「20年使用できます」と大々的に宣伝するような、過度な宣伝広告が繰り広げられました。

 現在、私達の思い描く「LED電球は10年以上もつ」というイメージが刷り込まれたのは、まさしくこのLED黎明期の宣伝の賜物でした。

 一方、目を転じて世界市場を見たときに、世界の3大メーカーである、エジソンのGE社、オランダのフィリップス社、ドイツのオスラム社は、全く違う動きをしていました。彼らは、中国に開発拠点をシフトし、開発コストの低減と、安くても力のある現地メーカーとのOEM、ODMなどの連携を深めていきました。競争は、コスト、デザイン、ブランド、販路、消費電力に重点を置き、日本のような過度な長寿命競争には入りませんでした。

 したがって、現在でも欧州、米国、アジア含め日本以外の地域で発売されているLED電球の設計寿命は、2万5千時間ほどです。ドイツのオスラム社と提携していた、三菱オスラム社の電球は、日本でも最後まで、設計寿命を2万5千時間としていたのは有名な話です。

 垂直統合型の日本企業が打ち出した、『設計寿命4万時間』のコンセプト、この戦略が次第に自分の首を絞め、そして、消費者の不信感を招き寄せることになるのです。

LED電球って本当に長寿命なの?

 市場では大手企業製品も含め、故障が散見され始めました。私たちがランダムに2000人を対象にした調査によると、実に18%の人がLED電球の故障を経験しており、そのうちの60%が大手企業製という異常事態が発生したのです。

 当然、市場は混乱しました。今でも、Googleで『LED電球』と入れると、候補キーワードで『故障』や『寿命』という言葉が出てきます。世界の人々に最大の利便性の提供を目指しているGoogleは、独自のアルゴリズムでこの検索キーワードを表示しているのですが、それだけたくさんの日本の人々が、その言葉(日本語なので日本市場だけです)で調べているということになります。

 ちなみに、私はここ5年ほどの間、この言葉が表示されなくなったという経験は一度もありません。大手メーカーも昨年末(2016年末)くらいから、『5年保証』などと言い出しましたが、今までの故障の原因を明らかにする事もなく、技術的な改善をするわけでもなく、ただ、保証期間を伸ばしています。

 もちろん、メーカーとしては、自分に火の粉が降りかからないように、しっかりと注意事項として、「1日20時間使用したら保証は半分」や「0ー40度まででお使いください」などの様々な条件をつけて販売を行っています。実際に何度まで上昇する可能性があるのか等の情報を開示する事もなく。電球は、確かに使用条件によってその環境は大きく異なります。しかしながら、これほど多くの問題が透けて見える商品も、滅多にないと言えます。

 こういった、技術的、政治的な問題があるからこそ、私たちKKテクノロジーズは裸一貫から電解コンデンサーレス技術を開発し、多くの人の「LEDは壊れないのに、なんでそんなに壊れない技術に固執しているの?」という、社会的通念に直面しながらも、事業を展開しているのです。

 ここまでは、LED業界の流れと動きを説明してきました。次回からは、第1章として、どのようにこの技術が生まれ現在に至っているのかについてお伝えしたいと思います。