LEDの寿命と熱設計
『熱は二つを食う。一つは電気を、一つは寿命を』
これは、電気設計に携わったことがある方はよく聞いた言葉ではないでしょうか?ハイテクノロジーの塊のようなLED照明ですが、実はまだ物理の原始的な部分との戦いが続いているのです。
LEDのアキレス腱〜電源回路〜
LED電球の寿命は、一般的に4万時間といわれています。実際はだれも4万時間を計測したことがない(1日8時間だと13年以上かかってしまう)ので、設計寿命ということになっています。寿命の目安として、初期値の70%以下まで光の量が落ちた時となっています。
さて、LED照明の寿命を決める要素としては、『LEDそのもの及びその周辺の材料』と『電源部分』があります。LEDは、直流電流で光りますので、交流の商用電源(日本では100V)から、直流電流に変換するための 電源(LEDをDriveするのでLEDドライバー回路といったりします)が必ず必要になります。
LEDの寿命を決めるもの
少し話が逸れますが、電子部品で『寿命』が規定されている部品は、多くはないのです。代表的なものとしては、一つは、携帯電話やパソコンに利用されているリチウムイオン電池を含む『電池』です。リチウムイオン電池は、充放電を繰り返す事によって容量が落ちてくるので、「○○サイクル」という規定が仕様書に載っています。もちろんそれを実現するための充放電の条件も明確に規定されています。
もう一つ有名なものは、モータです。回転する軸(及び軸受)がどうしても摩擦という物理現象から逃れられないので、摩耗によって寿命がきます。これも明確に寿命が規定されていることが多いです。
そしてもう一つ、有名な有限寿命(寿命があらかじめ決められている)電子部品が、私たちの電球に関係する『電解コンデンサ』という商品です。 この商品は、エネルギー密度(体積あたりの電気を蓄える量)を大きくすることが出来て、かつ、安価に生産できるという素晴らしい商品です。しかし、一方では内部に使用している電解液という液体が充放電を繰り返す事による化学変化や、ショートしても少しでも安全な爆発になるように取り付けられている安全弁からの蒸発などによって寿命が規定されています。たまに、パソコンから「液漏れ」がした、などと聞くことがあるかもしれませんが、それはこの部品です。
また、電解コンデンサの寿命は、使用される環境の温度影響を非常に受けやすいのも特徴です。ですから、一般的なコンデンサの製品仕様には、「105℃ 2000時間」などと、温度と時間の両方が記載されています。
そういえば、電池も内部に電解液を利用して化学反応させているので、寿命があるという原理は同じですね。その温度と寿命の関係は、業界的には「アレニウスの法則」といって、温度が10℃変化することによって、寿命が倍になるというのが目安になっています。
例で計算してみましょう。一般的な電解コンデンサの仕様である「105℃ 2000時間」という商品の場合、以下のような計算になります。
日本製のコンデンサーは、品質的にも優れており実力値は仕様よりもかなりあると言われていますが、仕様書上では、このようになります。
上記の式からお分かり頂けるように、LED電球の設計保証値を4万時間にしようする場合、コンデンサの周囲温度を60℃近辺にする必要があるといえます。 しかし、LEDそのものの発熱は、100℃を超えるので、冷やしてあげないと自分の熱で壊れてしまいます。 パソコンのCPUなども同様で、これらは「熱暴走」などと言われます。自分の熱で壊れるのですから、文字通り「暴走」ですね。もっとも、最近はCPUの中に温度センサーがついているものもあり、さすがに暴走はしないようですが……。
ですので、世界中のLED照明の設計者、特に放熱を担当する機構設計者はコンデンサの周辺温度をこの温度(60℃)以下に抑える事と、安価なものづくり両立の為に、死に物狂いの努力をしているのです。品質の悪い照明は、この放熱設計が悪い為に寿命が落ちたり、場合によっては1年未満で壊れたりします。
前門の虎、後門の狼
LED電球にとって、熱は大敵です。電解コンデンサ周辺の温度をいかに下げるかが、その信頼性と寿命の鍵になります。
しかし、LED電球は自分が発する熱の影響をまともに受けることによってダメージを受けてしまいます。熱を電源に伝えないよう遮断すると、LEDチップが自分の熱で壊れるか、寿命に大きな影響を与えてしまいます。
つまり、LEDを断熱するとチップが損傷し、熱を逃せば、もっと熱に弱い部分(電源回路・電解コンデンサー)が待っている。これが、冒頭の「前門の虎、後門の狼」の意味なのです。
熱伝導
放熱について、少し考えてみたいと思います。
最初に理解しなくてはいけないのは放熱とは空気中に熱を出す(伝える)事ですが、空気はもっとも熱が伝わりにくい物質の一つでもあります。加えて熱は電気回路と異なってアナログでの検証が難しいため、LED機構設計者(熱設計者)の頭を悩ませています。さらにコスト目標が拍車をかけます。
この解決策として一番手っ取り早いのが「熱伝導」です。発熱部分の熱を他に持っていき、表面積と温度差を使って熱を空気に逃す事です。そのためには、熱抵抗の低い物質が使われます。通常はアルミや銅などの金属が使われます。ちなみに世界で一番熱抵抗率が低い物質は、ダイヤモンドと言われています。
熱伝導は金属等に熱を伝えるだけなので、空気に伝えないと熱がこもってしまいます(熱飽和)。ですから最終的には、いかに熱を、熱伝導率の低い空気に伝えるかという事になります。
ここで重要なのは、
- 1. 空気と接している面積の大きさ
- 2. 空気との温度差(デルタT)
の二つです。車のエンジンやエアコン、半導体の冷却などは、ヒートシンク(放熱板)が、でこぼこしていますよね。これは少しでも空気との接触面積を増やそうとしているためです。LED電球も、凸凹(放熱フィンが立っていると言ったりします)がある商品を見かけるのはそのためです。
空気との温度差
次に重要なのが空気との温度差です。
通常の電子機器の動作保証温度は約40℃です。しかも、ヒートシンクの近傍の熱はその熱が伝わっていますので、40℃以上になっているケースがほとんどです。暖められた空気は対流を起こし動きますが、周辺の熱はこもってしまうため、冷却が難しくなってしまいます。
そこで扇風機(ファン)の登場です。強制冷却とも言いますが、ファンによって冷たい空気を常に巡回させることによって、放熱効果を飛躍的に上げる方法です。しかし、この方法は空気穴が必要で、軸受が摩耗するモータなどの稼動部があり、故障の原因になったり、寿命の影響が出やすいというデメリットがあります。さらに騒音の問題もあります。LED照明も数百ワットもの大型の物や、逆に放熱面積のない小型の製品ですと付いている場合があります。
LED照明だけではなく全ての電子機器メーカーは、この大きさという制約、およびデザイン性と寿命のバランスで設計をしているのです。
LightBankの努力
LED電球の寿命を決定づけてしまうのが、電解コンデンサと熱です。私たちは、この温度による寿命の原因となっている電解コンデンサをなくそうとしました。そうすると、設計も楽でデザインも良く、寿命も延びるからです。実は、当社以外にも電解コンデンサを使っていないLED電源は存在しますが、フリッカー(携帯電話のカメラで撮影すると縞模様が出る要因)が出たり、他の機器に影響を与える電磁ノイズが発生する、価格が大幅に上がるなどの問題がある場合がほとんどでした。
そこで私どもは、技術的な課題をクリアしつつ、出来るだけ価格の高騰を抑えられるような、電解コンデンサを使用しない電源を開発しました。寿命がある部品を使っていないので、保証期間を長くすることでその良さをわかっていただこうという狙いです。
電解コンデンサを使用していない事は以下のようなメリットがあります。
メリット1 設計寿命後でも、消えるリスクは少ない
このLED電球は、設計寿命後でもずっと点灯して私たちの未来を照らしてくれます。電解コンデンサを使う場合、中に入っている電解液がなくなった時点で役割を失い、その電球は使えなくなってしまいます。
しかし、私たちの電球は電解コンデンサを使用せず、寿命がある部品を使っていないため、熱や経年変化による蛍光体の化学変化で多少色合いは変わるかも知れませんが、使えないレベルにはなりにくいものです。
メリット2 電源周辺の温度をあげられるので、明るくすることが出来る
同じ大きさの電球でも、内部温度を65℃にしなくてはいけないものと、100℃まで上げても良いものでは、当然、発熱に対する許容が違ってきます。一般的な「105℃ 2000時間」の電解コンデンサでは、内部電源の周囲温度を100℃にすると、あっという間に寿命が来てしまいます。LEDの発光効率は、年々数%の割合で上がってきていますので、待てば待つほど明るい電球は出てくると思いますが、温度を上げて使える電源がある限り、常にそのトレンドに乗った明るく小さいLED電球をお届けすることが出来るのです。
長寿命で工夫している分はまだまだ書き足りないほどたくさんあります。しかし百聞は一見にしかずといいますし、使っていただくのが一番だと思いますので、ぜひ一度体験してみてください。
私どものLED照明の開発にはこんな背景や思いがあるのです。是非、お使いいただいて、孫の代までかわいがってもらいたいと思っています。